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「ねえ長次。もし、もしね、私が死んでしまったら、私のことなんか忘れて。別の誰かと幸せになって。そして貴方のその優しい大きな手で私を還してほしいの。私たちが出会った、あの場所へ。あの海へ還して。ねえ長次。約束よ。この約束だけは守って」 嗚呼、そう言ったお前は必死な目をしていたのを覚えている。必死に何かに縋り付くように頼む手を拒絶は出来なくて、一頻り頷くとは安心したように、満足したように微笑んだ。 それはお前が死ぬ、10日前の日のことだ。 残酷な女だと、そう思う。お前が俺を好きだと言うように、俺もお前を愛しているのに。お前だけが好きなわけではないのに。そんな残酷なことを言うのだ。こんな約束を取り付けて、恨んでやりたい。恨めるはずもないくせに。そんなことできるはずないくせに。愛しいと、今でも変わらず思っているのに。お前はそれを見通して、こんな約束をしたのだろう。お前は何もかも分かっていたのだろう。嗚呼、やはりお前は、残酷な女だ。 お前は忘れていいと、そう言ったが、俺はきっと忘れはしないだろう。忘れられないだろう。焦がれるまでに愛した女は、お前が最初で最後だ。 「………」 遺書。 愛して、いる。 070825 riyu kousaka |