「…別れよう」
「…どうして?私、なにかいけない事…した?」
「…違う」
俺がそう告げるとの眸は哀しみに揺れた。は何も悪くない。ただ、俺が、弱く、無力なだけだ。俺の腕がもう少し、もう少し長くすべてを包めたなら、不安や焦りを取り去る魔法をかける事が出来た。真っ直ぐなには俺はただの重荷でしかないのだ。沈んだ心を繕いながら笑う痩せた頬に戸惑い、目を逸らした。俺はすべてを諦めてしまった。俺はお前を置いて出て行く。否、お前はすでに俺の元から翔び発とうとしている。それをどう止めればいいというのだろうか。
「俺が…いると、お前は……駄目に、なる」
「そんなことない!私は、長次が、いないと…」
「お前は、夢に向かってただ、前を見て…進めばいい」
「長次…」
「、」
「ちょう、じ…」
「、俺は…お前の、幸せを……願っている」
の眸から涙がボロボロと流れ落ちていく。俺はただ、小さく頷いた。は俺に手を伸ばし俺に触れるか触れないかというとこで手を止めた。触れたいけど、触れられない。触れてしまったら、離れられなくなってしまう。俺も、も判っている。だけど、俺はその腕を掴み、引き寄せた。は俺の胸に顔を埋めて小さく震えながら泣いた。微かに聞こえる嗚咽が俺の胸を締め付ける。この別れの痛みを輝く宝石に変えて、俺達の重ねた日々を失くさないでいてくれればいい。はゆっくりと新しい世界へ翔び発つ。が俺の前から消える。さようなら。愛しい人。どうか、幸せに。俺もこの痛みと思い出を宝石に変えて心の中に大事にしまっておこう。ずっと、忘れる事のないように。大事に、大事に。
翡翠