が切り揃える私の黒髪はふわりと吹いた風に触れて無様に揺れた。すっきりとした首筋が少し寒いと感じた。は私の髪を弄びながら梳いてゆく。それが心地よくて私は目を瞑った。するりと手が離れたかと思ったら、は椿の木に水を与えていた。慈しむように椿の花に触れてプチリとひとつとり私の髪につけた。は「仙蔵は椿が似合うね」と目を細めて笑った。
「だったら、お前の方が似合うだろう」
「ううん、仙蔵だから似合うのよ」
「…そうか?」
「そうよ」
は落ちた椿の花を優しく丁寧に掻き集めながら笑った。私は椿の花を踏まぬ様にに近づき同じ様にしゃがんで椿の花を掻き集めた。土に塗れて綻びたの手をきつく絡めて握った。は「痛いよ仙蔵」と言って笑った。私もに釣られて笑った。さっきより手を強く握り締めて。
「?」
起きたらは隣りにいなかった。を探して家中を探したが、何処にもいない。嫌な予感がした。そして、椿が生えている庭に出た。はいた。けれど、もうそれはではなかった。見るも無残には「死んで」いた。否、まだ「死んで」はいなかった。の左胸はまだ生きていると主張する様にゆっくりと上下に動いていた。右腕は変な方向に折れ曲がり、脚はもがれて、体は放り出されていた。私はゆっくりと近づきを抱き上げた。はうっすらと目を開けて笑って、左手にもっていた椿の花を私の髪につけて、ゆっくりと唇を重ねた。唇が離れると「愛してるわ、せんぞ、う」と小さな声で私にそう告げるとゆっくりと目を閉じて眠りについてしまった。椿の花は総て地に落ちてその紅い花はの紅でよりいっそう紅く輝いていた。私は無言でを寝室へと運んだ。そして、ベッドに寝かせ用意した濡れたタオルでの体を丁寧に優しく拭いてゆく。(が椿の花を掻き集める時の様に、優しく、丁寧に。)綺麗にしたの体ともげた脚を細い糸で縫い合わせる。丁寧に、丁寧に。そしてゆっくりとまた持ち上げて地下室に運んだ。ツンと刺激臭が部屋いっぱいに漂っている。私は換気扇を回してから、透明な液体がたっぷりと入った大きな水槽にをゆっくりと沈めた。は透明な液体の中でゆらゆらと漂っている。まるで、水槽の中を泳ぐ金魚のように優雅に美しく。私は水槽に額を押し付けゆっくりと崩れ落ちた。目から流れる水など気付かないふりをしてただ、手を白くなるほど握り締めた。爪が食い込み紅い血が腕を伝って床を紅く染めた。ぽとりと私の髪についていた椿の花が静かに床に落ちた。
カメリア