空は雲一つ無い暗闇で、そのなかに月が出ていた。虚圏では在りえないことだ。どこも欠けていないから、今日は朔の日なのだろう。あたりをぼんやりと照らしている。月の光は死んでいる光、というのを聞いたことがあるが、まさにその通りだと思う。月は死人の香りがする。 「無様だな、」 「ははっ、自分でも分かってるよ、ウルキオラ」 仰向けに倒れているを見下ろすように言ったら、いつものように明るい声が返ってきた。しかしその声に比べて、容姿はとてもひどい。腕にも顔にも身体の見える範囲の皮膚には切り傷が多数見受けられる。それになによりその薄い腹から見るからに致死量を軽く超える血がどばどばと流れ出ているせいか、の周りは血の水溜りになっていて、白いの服は真っ赤に染め上げられていた。呼吸も苦しそうで激しく胸を上下させている。 「お前一人で叶わぬ相手ではなかっただろう」 「そうなんだけどねー。ちょっと気ぃ抜いてたら援軍が来ちゃってグサっとやられちゃった」 「やつらは?」 「もちろんちゃんと全員殺ったよ」 「そうか、ならいい。逃げ帰られては後々面倒だからな」 「あたしはヤバイけどねー」 とんだドジを踏んだよ、とが言った。金の両目は今は伏せて、傍から見ると寝ているように見える。 「あーあ、言っとくんだった、な」 「グリムジョーにか?」 「うん、こんなことになるなんて思ってもみなかったから。後悔後立たず、だね」 「今更言ったって意味無いがな」 「ウルキオラってホント厳しいよねー」 「事実を言ったまでだ」 「それが厳しいんだってば。…ねぇ、ウルキオラ」 「…なんだ」 なんとなく、予想は付いていた。は閉じていた目を重たそうに開け、虚ろながらでも俺をはっきりと見つめながら、言った。 「あたしはもう無理だからさ、代わりに伝えてくれない?」 「断る」 「そこまで嫌そうに言わなくてもいいじゃない。ぱぱっと伝えるだけでいいからさ」 「その程度な内容なら自分で言うことだな」 「あはは、でもウルキオラのことだから言ってくれるんでしょ」 「………」 「もうね、指先に感覚が無いの。血を流しすぎたかな」 自分を皮肉に笑うように微笑むと、はぁと大きめなため息を吐いて目を閉じた。その瞳にはもう何も映らないのだろうと、理解した。 「じゃあ、そろそろいくね」 「連れて帰るのは俺だろう」 「あ、約束覚えててくれたんだ」 「別に破ってもいいんだが」 「嘘って。ウルキオラならちゃんと覚えてると思ってた」 じゃあ、おやすみ、とが呟いて、そして何も言わなくなった。 さようなら、愛しき人よ。 俺がお前を好きだったと、お前は知っていたのだろう? |
0700702 riyu kousaka |