そろそろあたしは死んでしまうんだろうか。最近ではご飯も喉を通らなくなってしまい、水を二三口飲むだけで、一日中布団のなかだ。それなりに質量があったはずのあたしの身体も見る見るうちに痩せ細ってしまって、今では骨に皮がただ付いているだけの、張りぼてのような身体になってしまった。生きてる精気が感じられない。


窓のほうを見てみると、しとしとと雨が降っていた。きっと霧雨だろう。いつもなら張り付くような喉も、雨が降ってるからかじっとりと潤い、湿っているのが分かる。命の叫びを上げてるかのような蝉の鳴き声も今は聴こえず、ただ静寂だけが流れた。雨の音だけが、静かに響く。









嗚呼、あたしは今日死ぬのだと、気付いた。







がらりと戸が開く音が聞こえ、戸のほうに顔を向けると、背の高い黒い忍装束を着た頬に十字傷がある男が仏頂面で立っていた。ちょうじ、と名前を呼んだら、いつものように無言で家にあがり、枕元までやってきた。しゃがんであたしをじっと見つめてくる顔にはいくつもの擦り傷や切り傷があり、肩を流れる髪の長さが時間がどれだけ流れたのかを感じさせる。雨の中来たせいか、その長い髪は濡れていて頬を伝っていた。腕を伸ばし、長次の濡れてる頬に手を滑らせると、その上から長次が手を重ねた。濡れた頬は氷のように冷たくて、でも重ねる手は昔と同じで熱く、あたしは少し笑った。





「最期に長次に逢えて、良かったわ」


あたしがそういうと、長次はあたしの手を頬から離し、そっと手のひらを押し広げると優しくキスを落とした。触れるような淡い口付けは、冷たかった手のひらをじんわりと熱くして、あたしの冷たさを吸収してるかのようだった。






「ちょうじ、あいしてるわ


最期の力を振り絞った言葉は空気を振動させず、宙に舞った。あたしはゆるやかに意識を手放した。意識が途切れるその刹那。低く響く、あたしの大好きな声が聞こえた気がした。


俺も愛していた






(ああ、あたしは幸せだ)




シガー


070520 riyu kousaka