「血も繋がらない私をどうして愛せるの?」 無言の影の間を風がすり抜けた。あと少しで今日の役目を終える太陽が最後の仕事と言わんばかりに私と文次郎を紅く染め上げる。足元にさざ波が押し寄せて、砂の中へと足を埋めた。 「何故私を好きだと言えるの?」 追い討ちをかけるようにそう言い放つと、文次郎は眉間の皺をもっと深くした。 別に文次郎が嫌いなわけじゃない。私も文次郎が好き。でも、駄目なの。 「文次郎は忍者を目指すんでしょう?」 「ああ」 「その道に私がいては駄目なのよ」 「何故だ」 「私はきっと、文次郎の邪魔になる」 ぶるぶると喉が震えた。目がじんわりと熱くなってゆくのが分かる。 「私はきっと文次郎の全てを欲しがってしまう。全てになりたがる。私はきっと、忍者を目指す文次郎の負担になってしまう。重りになってしまう。そしたら嫌われてしまうかもしれない。私はそれが怖い」 「だから、私は文次郎と一緒になれない」 怖い怖い怖い。ただひたすらにそれだけが怖く恐ろしい。文次郎がこれからさきずっと好きでい続ける確証などどこにもない。今は好きでも、これからさきも好きでいてくれるとは限らないのだ。私はそれが恐ろしかった。文次郎に嫌われることが、捨てられることが、私の世界の終わりだった。なんで私はこの男がこれほどまでに好きなのだろう。何故、こんなにまでも愛してしまったのだろう。もっと別な、違う男を好きになればこのような思いもせずにすんだのに。知らずにすんだのに。だけれども、この男以外を愛すことはもう出来ないことを、私はすでに知っていた。 「ふざけるなよ」 先刻から黙っていた文次郎が、言った。その声はいつもの声と違ってひどく低い。 「俺のことをお前が勝手に決めるな」 文次郎の眼光が鋭くなる。その鋭さに、私は身を強張らせた。文次郎はずかずかと自分の足が濡れるのも構わず、波を掻き分け近づいてくる。逃げなくちゃ。頭のどこかが危険信号を出しても、身体が動いてくれない。頭と身体の神経が切断してるみたいに動かない。 「お前が俺の負担になるだと。そんなに俺は器が小せぇ男にみえんのかよ」 「受け止めてやるよ、それぐらい」 いつの間にか、文次郎は目の前まで来ていて、私は背の高い文次郎を見上げていた。文次郎はさっきと同じ鋭い目で私を見下ろしていた。その目の、瞳の奥に僅かな哀色が見えた気がした。 「好きだ」 そう言われて、私はその狭い窮屈な腕の中に押し込まれた。全ての不安が一斉に音を立てて弾けた。心臓が張り裂けるか思った。耳元で大きく鳴り響く。 きっと幸せなことばかりじゃない。きっと傷付く事だってたくさんあるはずだ。私の頭は良くないわけではないけど、悪くもない。それくらいのことは分かってる。自分を守る術ぐらい分かっている。でもそれでも私はこの手を取ってしまうのだ。 そして私は、文次郎の胸の中で、泣いた。 |
070526 riyu kousaka |