「またいくの?」
「…あぁ」
「いつ」
「明日の夜明けと共にここを出る」
「帰ってくるのも急だけど、いくのも急なのね」



そういって少し起き上がって仰向けに寝ていた文次郎の上に頭と左手を乗せた。裸の文次郎の胸に置いた左手にとくとくと鼓動の音がした。それが今この男が生きているのだと実感させる。上を向くと文次郎と目が合った。



「死なない、でね」
「当たり前だ」
「今度は短陣なの?」
「たぶん長陣になる」
「そっか」


忍者の妻になると決めたときに覚悟してたことだ。この男は仕事が一番で他は二番で、ほったらかしにされることが目に見えて分かると。それでもこの男がどうしようもなく好きで、一生ついていくと、あたしが決めた。それなのに文次郎を困らせることなんて、淋しいだなんて、言えるわけがない。あたしは文次郎が傷付いて帰ってきたときに唯一休めれるところなのだ。それしかできないのだ。迷惑はかけれない。



泣けるわけ、ない。






長く伸ばしたあたしの髪を文次郎が優しく梳かしてくれた。不器用ながらもゆっくり丁寧に梳かしてくれるその手つきがあたしは昔から好きだった。優しく眠りに誘われる。










「起きたのか」
「いって、らっしゃい」
「いってくる」



そういって扉の向こうに聞けてしまった人はいったい次はいつ会えるのだろうか。寒さに悴む指にはぁ、と息を吐きかける。白い息が空中に溶けた。毛布を膝に掛けても、暖炉に火を灯して暖を取ろうとしても、手に滴る水のせいでまだ暖まりそうに無い。




スター




どうか、お願いだから無事でいて
070423 riyu kousaka