文次郎が帰ってきた。もう師走の半ばを過ぎ、年末へに向けての作業が忙しい中、誰が訪ねてきたかと思えば、愛しい夫が仏頂面で突っ立っていた。この前帰ってきたときに月見の団子を食べたのを覚えてるから約三ヶ月振りだ。服のあちこちを破れていて、身体全体にかすり傷を負っていたが、致命的な傷はなかった。昔、一度腹に弾を受けて帰ってきたことがあって、そのときは死ぬかと思った。文次郎も、あたしも。それからというもの、文次郎が帰ってきたらまず怪我の確認をするのが定番となってしまった。あたしが軽く笑うと文次郎は頭巾を取って、ぼさぼさの髪を掻いた。




「おかえり」
「おお、ただいま」
「今回は大きな怪我はしてないね」
「バカタレ、当たり前だ」
「みんなの中で一番伊作のお世話になってる奴がなにを言う」




意地悪にそういうと文次郎は眉間に皺を寄せて、ひょいとあたしを担ぐと家に入った。あたしが抗議しても手足をバタつかせても文次郎はなにも言わずに黙々と歩き続け、そしていきなり止まったかと思うとどさっと降ろされた。降ろされた先には布団。やっと文次郎の意図が分かった。




「何も言えないからって、いきなりですか、旦那様」
「うるせー」
「まだ天高くお天道様が輝いてるんですが」
「夜まですればいいだろ」
「(夜までって)あ、そういえばこの間小平太が来てくれたよ」
「そうか」
「そしたらちょうど薬の補充に来てくれた伊作と前に頼んでた屋根の修理に来てくれた留も一緒になっちゃってね。それだけでもすごいのに、偶然休みだった仙蔵と長次が一緒に年末のあいさつに来てくれて、みんな集まっちゃったから結局宴会することになったの」
「…あいつら元気だったか」
「うん、元気そうだったよ」
「まぁ、あいつらが元気ないなんて考えられないけどな」
「そうだね」




頬やおでこ、顔全体にキスをされるのがくすぐったくて、目を瞑ると瞼にキスされた。ゆっくり目を開けると、文次郎と目が合った。文次郎がどことなく楽しそうに笑ってるのをみると、本当に文次郎が帰ってきたと実感して、嬉しくてあたしも何故か笑ってしまう。それだけで足りなくなって、あたしは文次郎に口付けた。



、」
「本当におかえりなさい」





キラキラ



それが合図のようにあたしと文次郎は布団になだれ込んだ。
070423 riyu kousaka