ふと、目を覚ますと時計はすでに午前4時を指していた。ゆっくりを身体を起こすと鈍い痛みが腰に走る。あー、そういえばあたし途中で意識飛ばしちゃったんだっけ?毎度のことながらこいつも少しくらいは手加減しろよ、と隣で眠っている男に思ったけどそれを声に出すのはやめた。こいつは実は起きていて後からゆすられるっていうのがありえそうな男だ。っていうかありえた男だ(あのときは散々な目に合った)。だからあたしはそれ以来この男の前で独り言を控えている。隣ですやすやと眠っている(ように見える)男を起こさないようにするりとベッドから降りるとあたしは外に出ようと考えてそこらへんに落ちてた臨也のシャツを着てベランダへと足を進めた。まぁ、高層マンションだとしてもさすがに裸でベランダに出るのはアレだろう。窓を開けると少し肌寒い夜風がなだれ込んできて少し鳥肌が立ったが、あたしは気にせず外に出た。新宿の夜は池袋と違って静かな気がする。きっとそれは黄色いバンダナを着けた若者たちやあやしい日本語を話す寿司屋の男、世間を騒がす首なしライダー、そして自動販売機を投げたり標識を引っこ抜いたりする男もいないからだろう(もっとも、その男を激怒させることができる男が後ろで寝てるんだけどね)。


彼は毎夜あたしのことを愛してると言ってくれるけど、それはあたし個人に対して、つまりという人間一人を愛しているんではなくて人間を世界中にいる全ての人類(平和島静雄を除く)を愛してるのであり、けしてあたしを愛してるのではない。人間を、愛してるのだ。そんな彼があたしと肉体的な関係なのはただ単に相性がいいとか手軽だとかその辺に落ちているような陳腐で簡単に腐れ落ちてしまうような理由なんだろう。色々と彼は歪んでいるけど顔はいい。一晩だけの関係の相手なら吐いて捨てるくらいいるだろうし(むしろ金を出してまで彼に抱かれたい女もいるそうだ)あたしなんかよりずっと顔や体型(特に胸)がいい人が山ほどいるはずだ。それなのにいまだあたしと関係を持っている理由を探すとなるとこれぐらいしかない。

あたしは彼を愛しているが、けして人間を愛しているわけではない。彼みたいに世界中にいる全ての人類(平和島静雄を除く)を愛してはいない(むしろ平和島静雄の人間性は好きだ)。あたしは彼個人を、つまり折原臨也という存在を愛してるのだ。彼が人間というカテゴリに属しているあたしを愛していることを知った上で。あたしは別に彼が人間でなくてもある日突然女になっても犬になっても猫になっても彼を愛すだろう。あたしと彼の愛は必要十分条件でもなんでもない、ただの自己満足だ。彼がいう愛してるの言葉は決してあたしに向けられて言う言葉ではなくとも、あたしの後ろに存在する全人類(平和島静雄を除く)に向けられているとしても、それを聞いているのはこの世であたしだけの人類であることに喜びを感じているのだ。さっき彼が歪んでいるといったけど、こう見ればあたしも大概に歪んでいるような気がする。


、さっきからぼやっとして何考えてんの?」

振り向くといつのまにかベッドから抜け出てきた臨也がサッシに寄りかかってこちらを見ていた(やっぱり寝てなかったな)。その目はあたしを言及しようとかそういう目ではなく、単なる興味心に満ちた眼だった。あぁ、やっぱりこいつはあたしを見ていないのだ。



Will You Dance?


「愛のことよ、臨也」



061129/riyu kousaka