「を食べてしまいたい」 僕がそういうとはこちらを振り向いて、冗談はやめてよと笑った。 は冗談だといったけど、冗談なんかじゃない。本当に食べてしまいたいと思うんだ。大好きだから愛してるから全てが欲しい。頭の先から指の先までの全てを食べて飲んで啜って自分のものにしてしまいたい。血だって一滴残らず嘗め尽くして零しやしない。これは愛してるからこその衝動。本能による行動。食欲なのか愛欲なのか分からない激情。その血肉を頬張り、噛み砕き、飲み下し、は僕の一体となる。きっとその肉は甘く蕩けるような甘美な味で、僕の脳髄を揺さぶり、この世のものとは思えないほど超絶に美味なのだろう。嗚呼、なんと素晴らしい。美しき、愛ゆえの食肉。 だけど僕の中の僅かに残ってる良心が必死に呼びかける。 『愛してるのならもっと別の方法があるはずだ。食べるなんてする必要はないじゃないか。だいたい何故愛してるのに食べなければならない?元々僕は善良だったはずだ。もっと普通にを愛せていた。カニバリズムなんて存在しなかったのになんで君はそんなことを考えるようになってしまったのだ。異常だ。愛しているのに食べたいだなんて異常だ。君は、僕は異常者だ。それに大体を殺し、食べてしまったら、もう二度とあの愛しい、可愛い声で自分の名前を呼んでもらえないよ。それでもいいののかい?』 気付けばが僕の目の前まで来てて、伊作どうしたの、と心配そうに顔を覗きこんでいた。自分が食べられそうになってることを知らずに僕を気遣うをとても愛らしく思うのと同時に、確かにこの声が聞けなくなるのは惜しいなと思った。 「なんでもないよ」 いつか僕が殺めてしまうまで、それまでどうか僕の名前を呼び続けて。 |
070518 riyu kousaka |