そこは死んでいるように静かな空間だった。ここだけ時間が止まっているような感覚になる。壁も床も天井も部屋全部が白い。ふと見やると、窓辺においてある花瓶の花がじおれて首を垂れ下げていた。ここはあたしがしないと花さえも換えてくれないのだろうか、と考えたが、すぐにあたし以外が換えるのを遠慮したてあたしが換えるのを待っていたのだろうと思った。だって彼が来ない日なんてないだろうから。きっと彼があたしに気遣ってみんなに言ったのだろう。彼は優しいから。その証拠に部屋は窓辺の花以外埃一つなかった、というよりこの部屋の中には塵一つ浮かんでないようだった。精密で緊密に張り巡らせているような空気に息を詰まらせるようで、あたしは窓に手を伸ばした。開けた途端にまだ肌寒い春風が吹き込んでカーテンを揺らした。鼻に少し甘い香りが残る。外を見ると桜の花が満開に咲き誇っていた。 もう、三年になるのだ。一人で桜を見るのは。短いようにも感じられたが、随分と長かった気もする。感傷に浸りだす前にあたしはため息をついて、花の入れ替えをしようと花瓶を持ち上げた。 . . . 手洗い場で花を差し替えて部屋に戻ってきたとき、見慣れた姿のやつが窓辺のから外を眺めていた。 「山本。」 「お、やっと戻ってきたか。久しぶりだな」 「うん、三ヶ月ぶりかな」 「出張どうだった?」 「ディーノさんは優しいしみんな親切だし、楽しかったよ」 「そりゃよかった」 といって山本は笑った。久しぶりに見る旧友の顔は前より凛々しくなっているような気がした。ボンゴレでもいろいろあったと聞いていた。何かと苦労が絶えないのだろう。 「みんなどうしてる?」 「元気でやってるよ。まぁヒバリと骸はあの調子だけど」 「ならよかった。あの二人が仲良くしてた日にはあたし倒れてちゃうもん」 「たしかにな」 「ツナは?昨日いったんだけどいなくてさ。どうしてる?」 「あいつこのごろ忙しくってさ、マフィア対抗の桜見大会やらで走り回ってるよ」 「もうそんな季節かぁ」 「・・・・・・三年になるんだな」 「・・うん。」 神妙な雰囲気になってあたしと山本はお互いに黙ってしまった。そして山本は部屋のベッドの上で眠っている男をみた。銀髪で薄い唇、細い肩(女のあたしと比べてはガタいけれど)をしていて、静かに眠っている男。獄寺、隼人。さっきこの部屋は時間が止まっているような感覚になると言ったけど、それは隼人のせいでもあると思う。三年前から何一つ変わらずにずっとそこで眠ってる隼人。髪とか爪とか伸びているんだろうけどキレイに切り揃えられて昔の姿のままだ。三年前でこの世から隔離されているように時間が止まっている隼人を見ていると時間が止まっているように感じたって無理はないだろう。(それでもあたしの時間は非情にも過ぎていくのだ。彼を置いて。) 「こいつも早く起きろよな」 「・・・・・・」 「いつまでを待たせるんだよ。早くしないとがばばあになっちまうぞ」 「山本、それはひどんじゃない?」 「でも、ホントにこいつはバカだよ。馬鹿だ」 そういった山本は下へ俯いて黙った。あたしも何も言えずになってうなだれた。視界にキラリと光る銀色のリングが見えた。銀色に光るそれは窓から入った太陽の光を反射させてあたしの目をチカチカさせてあたしは眩しくて目を閉じた。本当なら三年前にあたしの左薬指にはまるはずだったのにはめてくれる人がいなくなってしまった行き場のない指輪。この指輪も彼と同じで過去に取り残されているのだろう。そしてあたしはそれを身に着けて少しでも過去に携わっていたいのだ。彼は死んではいない。でも生きてもいない。せめて死んでいたのなら踏ん切りはつくのに。変に生き続けるからあたしは苦しみ続けなければならないのだ。死んでくれたらどんなに楽になるだろう。(でもどうせそういっても本当に死んでしまったとしたら、あたしは悲しみに暮れ果てて死んでしまうだろうに。結局彼は生きても死んでもあたしを苦しませることしか出来ないのだ) 「はやく、おきてよ。」 そう小さく呟いた言葉は山本の耳にも隼人の耳にも届かず、涙とともに白い部屋に溶けた。 |