目を開けると、やはり相変わらず真っ暗だった。はぁ、とため息を一つ吐いてまた歩き出す。ここは暗すぎる。周りにはごろごろと赤い物体が落ちていた。赤いもの。少し前までほんの1時間も前には生きていただろうもの。人間が。あたしはそれらの上を容赦なく踏み歩く。だってそうもしなくちゃ歩けないんですもの。しょうがないじゃない?それに相手はもう動かないんだし(たまにまだ生きているやつとかもいるけど。)痛みなんて感じないから別にいいんだと思う。道徳的なものは置いといて。道徳とか人情とかそんなものむかしに捨ててしまった。そんなもの、この世界には不必要なだけだもの。この世界を生きる気は重いだけだもの。(捨ててしまったというより、亡くしてしまったというほうが的確かもしれない。あたしが初めてひとをあやめてしまったひに。)


歩いているとやっと月の光が漏れてる場所があった。月の光に当たると黒かった視界が赤色へと変化する。身体に飛び散った赤色に。つい先ほどまで白い色をしていたワンピースも真っ赤なワンピースに変貌していた。あぁ、今日も随分と派手にやってしまったな。クリーニング代馬鹿にできないくらい高いのに。また怒られてしまうよ。と考えているのに口元が歪んでしまう。とてもとてもうれしく。たのしく。感じてしまうのだ。あぁ、あたしはいつから狂ってしまったのだろう。あの日から?ひとをあやめたときから?それともさいしょから?

遠くでどぉんっていう音が聞こえた。まだ戦っているのね。あたしも応戦したほうがいいのかしら、でもあたしがいっても邪魔なだけだと言われそうってかいうね、あいつは。と考えて行くのは止めた。それにこれ以上動きたくないし働きたくもない。ここはとても血生臭いのだ。当たり前のことだけど。体中に張り付いている汗とか血とかはやく洗い流したいのに、動くわけないじゃないか。その辺に座って待っていようと辺りを見渡すと、一人、人影がいた。




。」
「隼人、もう終わったの?さっき向こうで爆撃聞こえたのに。」
「あれは時間差ボムだ。それにしてもまた今日は一段とひでぇなぁ。真っ赤だぞ。」
「お仕事頑張りすぎちゃったからね。」
「少しは十代目のことも考えろよな。この間お前の服のクリーニング代が高いって嘆いてらしたぞ。」
「あはは、そーなんだ。気をつける、といいたいところだけどたぶんムリ。」



笑ってそういうと隼人はわかってんよそんくらい。と、こつんとあたしのおでこを小突いた。
見上げた隼人の顔は昔の面影を残しながら昔なんかより大人びて見えた。実際隼人は昔なんかより大人になっているってかむしろ成長しないほうがおかしいんだけどね。声も低くなったし、それに短気な性格が随分と丸くなった。山本とはなんだかんだいって喧嘩(というか隼人の一方的な喧嘩だ。)してるけど。あたしは浦島太郎的な気分になった。あたしは何も変わっていない。顔も身体もそして心も。あのときから少しも変化していない。ピーターパンの呪いがかかったみたいになにも変わってなんかいない。いや、それはただのあたしの願望だ。月日はちゃんと流れてあたしはちゃんと年を取るし大人にだって近づく。どんなに止まってほしいと願っても時間は非情に流れていく。ピーターパンはネバーランドに連れて行ってはくれなかった。もう遅すぎたのだ。



。」



そういった隼人の顔はさっきのハニカんで笑った顔なんかじゃなくてどこか痛みを我慢しているような真面目な顔だった。あたしはいつかこの顔を見たことがある。
あれはいつだっけ?



、いつまでヒバリのことを想うつもりだ?」
「・・・・・・。」
「ヒバリだってお前に幸せになって欲しいと思うに決まってる。」



あたしと隼人をやわらかい月の光が包む。隼人の言葉を最後にして辺りは無音となった。時が止まった。ように見えた。あたしは目を伏せて、俯いた。



「ヒバリは。恭弥は、あたしにどうしてほしかったのかな?」



目から消えたものは心のなかからも消えるっていうことわざを聞いたことがある。あれは嘘だ。あたしの中の恭弥は消えるどころか和紙に落ちた墨汁のように広がって染み付いて根付いてあたしを捕らえて離さないのに。

隼人はあたしの頭を一撫でするとそのままあたしを抱きしめた。それはとても自然な動作で、あたしは最初気付かなくて隼人の暖かさでやっと気付いた。


「隼人、汚れちゃうよ。せっかく綺麗なのに。」
「構わなねぇよ。」


血飛沫一つ付いてなかった真っ白い隼人のシャツにあたしが浴びた血が染み付いていく。



、俺はお前に生きて欲しいよ。」

「……うん。」



ねぇ、恭弥。なんで恭弥はあたしを助けてしまったの?助けなんてしなかったらあたしはこんなことを考えもしないで、静かに恭弥に看取られていけたのに。あたしはどうしたらいいか分からないよ。恭弥のいない世界なんて生きるに堪え忍べない。でもこんなあたしでも心配してくれる人がいて死ぬこともできない。そして月日が流れるなかで思い出が記憶と変わっていく。そんななかであたしはいったいどうしたらいいというの?一生恭弥への愛を貫けばいい?でもきっとあたしは弱い人間だから誰かの手を取ってしまう。そして恭弥と暮らすはずだった幸せな日々をその人と暮らすのだろう。そうなっても恭弥はあたしを許してくれる?恭弥のことを忘れられないくせに恭弥とは違う人と別な人と幸せになっていい?


この腕にしがみついても、いい?











あるものは