静寂。昨日の深夜に任務を終えて、ベッドになだれ込んだままあと少しで一日が過ぎようとしている。そういえばご飯も食べてないや。でもあんまお腹空いてないしなぁ。動くことさえ面倒くさいし。そんなことをごろごろとしながら考えてると、ノックが2回なった。精密な機械のようにコンコンと。出るの億劫だし面倒臭いし、狸寝入りでもしてやろうかと無視を決め込むと、ドアががちゃっと開いて、真っ暗だった部屋に光がこぼれ込んだ。飛段だったら殴り飛ばしてやろうと考えていたけど、入ってきたのはイタチだったため、慌てて身体を起こした。イタチはあたしの姿を確認するとため息を一つ溢し、いるだったら返事ぐらいしろ、と静かに言った。(彼は何かと大変そうだ)




「いや、だって面倒くさかったんだもん」
「……次の任務だ」
「今度は誰と?」
「オレとだ」
「イタチとならいいや。この間飛段と組んだら最悪なんだもん、あいつ。なにがジャシン教だよ」
「………」
「角都は金金うるさいし、ゼツは話成立しないしさー。ホント嫌になっちゃう」
「……
「なに」
「いい加減、忘れろ」
「、」
「こんなことが起こることぐらい理解して、覚悟ぐらいしていただろう」
「…」


イタチは淡々と、言う。ゆっくりとドアに寄りかかっているイタチをみると、その赤い目があたしを捕らえた。


「あいつは敵より弱いから死んだ。ただそれだけだ。死んだものを思うことより、今は自分の状況を考えろ。迷えば隙ができ、そこを突かれる。そのようだったら勝てるものも勝てやしない。」
「……」
「迷いがあったら、死ぬぞ」
「わかってる。」
「…、これに任務の作戦が書いてある。ちゃんと読んで頭に叩き込んでおけ」
「わかった」


投げられた書類を受け取り、そう答えるとイタチは踵を反し、ドアノブに手をかけた。


「イタチ!」
「なんだ」
「ありがとう」
「…ヘマするなよ」


イタチはうっすらと、目をよく凝らさないと分からないくらいに微少に笑って、ドアを閉めた。あたしはもらった書類を手に持ったまま、うつ伏せにベッドに倒れこんだ。ぼふん、とスプリングが跳ねる。さっきもらったのにもう書類はぐちゃぐちゃだ。いや、あたしがしたんだけれど。


「……ありがとう」


やっぱりイタチには何も隠せないな、と心の中で呟いた。別に声に出していっても、もう焼きもちを焼く人がいないんだからいいんだけど、心の中で呟いた。あたしの中に未だ佇んでいる人を一目で見極めるなんて、イタチしかいなかった。飛段も角都もゼツもトビも誰も気づかなかったのに。飛段と喧嘩してるときも角都と家計簿を睨めっこしてたときもトビと愚痴の言い合いして慰めあってたときも。全て総てすべて、考え思っていた人はただ一人。


嗚呼、愛しい人よ。君はどこにいってしまった?













どれくらい時間が経っただろう。ドドン、と大きい響くような音が鳴った。窓の外に目をやると、そこには数秒も持たない、大輪の花が咲き誇っていた。


「キレイ」


こんな時期はずれに花火とは、これが今年最後の花火大会だろう。そういえばデイダラも花火が好きだった。爆発も花火も一瞬の美だと。だから夏になるたびにあちこちの花火大会に赴いては人が来ない絶景ポイントを探すのが習慣になっていた。あたしは一瞬の美とか永遠の美とか関係なく花火がすきだった、けど。今年はどうしても見に行く気になれなかった。見たら泣きそうな気がしたから。あたしはベッドから起きて、窓のサッシから身を乗り出した。また、ドンと地響きがして花が咲く。一夜限りの、一瞬だけの花が。手を差し出しても決して届かない、遠い遠い花。ああ、なんで君はいなくなってしまったのだろう。まだこんなにキレイなものを見らずに逝ってしまうなんて。あたしを残して逝ってしまうなんて。約束と違う、じゃないか。馬鹿。馬鹿デイダラ。なにが一瞬の美だ芸術だ。なにがオレがより先に死ぬわけないだろ、だ。現に死んでしまったじゃないか。死んだじゃないか。お前が死んでしまったら、芸術も何もないだろうが。お前が死んでしまったら、あたしは、



でも、でもそれでも。あたしはまだそっちにはいけない。まだやるべきことがあるんだよ。そっちにはいけないんだ。お前が夜空輝く星になったのなら、あたしは夜になるよ。お前がキレイに輝けるように、暗い漆黒の闇に。








ナイトスカイ





来年は一人で花火を見に行こう。もう隣にいた君はいないけれど。君と見たキレイなあの空はまだあたしの中に残っているから。


2007/0212 riyu kousaka